はじめに
オーナー社長にとって、毎年悩みのタネになるのが「役員報酬をいくらにするか」という問題です。
・税金をできるだけ抑えたい
・社会保険料も重くなりすぎてほしくない
・でも、会社にもお金を残しておかないと不安
・銀行評価も下げたくない
こうした思いが交錯し、
「結局なんとなく去年と同じ金額」になっているケースも少なくありません。
この記事では、
- 役員報酬が「税金」「会社の体力」「銀行評価」にどう効いてくるか
- 社長個人と会社のお金の動かし方をどう整理すべきか
- 実務で役員報酬を見直すときの考え方とステップ
を、中小企業のオーナー社長目線で整理して解説します。
▼ この記事の目次
1. 役員報酬は「社長の給料」ではなく「会社の配分ルール」
まず押さえておきたいのは、
役員報酬は「社長が好きなだけ持っていくための箱」ではないということです。
役員報酬は、
- 会社が稼いだ利益のうち、どれくらいを社長個人に移すか
- どれくらいを会社に残して、体力や投資余力に回すか
という「分配のルール」そのものです。
同じ利益1,000万円でも、
- 役員報酬として900万円持っていく会社
- 役員報酬は600万円に抑えて、400万円を会社に残す会社
では、数年後の姿が大きく変わります。
前者は、
- 社長の手取りは一見多い
- しかし会社にはほとんど蓄えが残らない
- 売上が少し落ちるだけで資金繰りが一気に悪化しやすい
後者は、
- 社長の手取りはほどほど
- 会社には利益が積み上がる
- 内部留保を原資に、投資・採用・設備更新に動きやすい
どちらが良い悪いではなく、
「会社としてどうありたいか」によって、役員報酬の位置づけは変わってきます。
ここで大事なのは、
- なんとなく前年の金額を踏襲しない
- 「税金を下げたい」だけの視点で決めない
ということです。
役員報酬は、
「社長の生活」と「会社の成長」と「銀行からの信用」
を同時に調整する、経営上のかなり重要なレバーだと位置づけておくのがおすすめです。
2. 税金・社会保険から見た役員報酬の考え方
次に、役員報酬を税金と社会保険の面から見てみます。
ざっくり言えば、
- 役員報酬を増やす → 社長個人の所得税・住民税・社会保険料が増える
- 役員報酬を減らす → 会社の利益(法人税の対象)が増える
つまり、
「個人の税負担」 VS 「会社の税負担」
のバランス調整が役員報酬です。
● 個人側から見たポイント
- 所得税・住民税は、収入が増えるほど税率が上がる(超過累進課税)
- 社会保険料は「標準報酬月額」で決まり、ある程度までは比例的に重くなる
- 生活費・住宅ローン・教育費など、個人として「最低限必要な手取り額」は死守する必要がある
このため、
- 「とにかく役員報酬を削ればいい」という話ではない
- 社長の生活が苦しくなりすぎると、結局会社の判断にも悪影響が出る
という現実もあります。
● 会社側から見たポイント
- 役員報酬は、原則として全額が損金(経費)になる
- 報酬を下げれば法人税は増えるが、会社に利益と内部留保が残る
- 金融機関は「安定して利益が出ている会社」を高く評価する
このバランスを取るうえで、目安として意識したいのが、
「社長個人の手取り」ではなく「世帯としての必要生活費」
です。
たとえば、
- 毎月の家計に必要な金額(住宅・食費・教育費・保険など)
- 年に一度の大きな支出(車検・旅行・教育関連など)
を足し合わせて、
「1年間で、いくらあれば無理なく暮らせるか」
をざっくり出しておくと、
役員報酬の最低ラインが見えてきます。
そこから先は、
- これ以上役員報酬を上げても、税率が上がるので手取りの伸びは鈍い
- その分は、会社に残した方が長期的に得
といった感覚を、税理士と一緒にシミュレーションして決めていくのが現実的です。
3. 会社に利益を残すことが、なぜ銀行評価を上げるのか
前の記事でも触れましたが、銀行が見ているのは、
「この会社は長期的に見て倒れにくいか」
という点です。
その判断材料になるのが、
- 毎年どれくらい利益を出しているか(収益力)
- その利益を会社にどれくらい残してきたか(自己資本・内部留保)
です。
もし、
- 毎年そこそこの利益は出ているのに、役員報酬としてほとんど外に出してしまっている
- 会社に残る利益剰余金がなかなか増えない
という状態が続いていると、銀行からは、
- 「会社としての体力は弱い」
- 「少し業績が悪化すると一気に資金が苦しくなりそう」
と見られやすくなります。
逆に、
- 売上は派手でなくても、毎年着実に黒字を積んでいる
- 利益剰余金が年々増えており、自己資本比率も改善している
という会社は、
「無理をしない堅実な経営をしている会社」
として評価されやすくなります。
● 「節税」と「信用力」はトレードオフになることが多い
短期的に見れば、
- 役員報酬・経費を増やす → 法人税が減る(=節税感がある)
しかし長期的に見ると、
- 会社に利益が残らない → 自己資本が増えない → 銀行評価が上がらない
- いざというときに借りたい金額が借りられない / 条件が厳しくなる
という結果を招きます。
オーナー社長としては、
- 「今年いくら税金が減ったか」だけでなく
- 「5年後の会社の体力・信用力がどうなっているか」
という視点も含めて、役員報酬の水準を考えるのが理想的です。
4. 役員貸付金・役員借入金に潜む“見えないリスク”
役員報酬とセットでよく問題になるのが、
「役員貸付金」「役員借入金」です。
● 役員貸付金が膨らむケース
役員貸付金は、簡単に言えば、
「会社から社長に貸しているお金」
です。
次のような積み重ねで膨らみがちです。
- 生活費を会社口座から引き出しているのに、役員報酬として処理していない
- 私用のクレジットカード支払いを会社が立て替え、そのまま精算していない
- 昔の処理が整理されず、そのまま貸付金として残っている
銀行から見ると、
- 「会社のお金が社長個人に流れっぱなしになっているのでは?」
- 「返済する意思や計画はあるのか?」
といった疑念が生まれます。
実務的にも、
- 税務調査で「実質的な役員報酬ではないか」と指摘されるリスク
- 貸倒損失として落としづらく、いつまでも貸付金として残り続ける
など、メリットの少ない勘定科目です。
● 役員借入金が多いケース
一方で「役員借入金」は、
「社長から会社に貸しているお金」
です。
資金繰りが苦しいときに、
社長の個人資金から会社に入れたお金がここに出てきます。
銀行の見方としては、
- 「社長が身銭を切って支えている会社」
- 「オーナーのコミットメントは高い」
というポジティブな印象もありますが、
同時に、
- 「返済を求められると資金繰りが一気に悪化する可能性がある」
- 「過去に資金繰りで苦労してきた会社かもしれない」
という見方もされます。
どちらにせよ、
- 「なぜ貸付・借入が発生しているのか」
- 「今後どのように精算していく予定なのか」
を社長自身が説明できる状態にしておくことが重要です。
役員報酬の設計と、生活費の出し方、
会社・個人の資金の行き来を整理することで、
不必要な役員貸付金・借入金を増やさないことができます。
5. 役員報酬を見直すときの実務ステップ
では、実際に役員報酬を見直すとき、
どのような手順で考えていけばいいのでしょうか。
ここでは、あくまで考え方の流れとして整理します。
ステップ1:社長個人の「最低限必要な年間手取り」を把握する
- 毎月の生活費・住宅ローン・教育費・保険などを書き出す
- 年に一度発生する支出も年額でならしておく
- 「これだけあれば、不安なく生活できる」というラインを決める
この金額から逆算して、
必要な「税引き後」の手取り → 必要な役員報酬水準をおおまかに掴みます。
ステップ2:会社の利益水準・投資計画・借入状況を整理する
- 直近3年の売上・利益の推移
- 今後予定している設備投資や採用計画
- 既存借入の残高と返済スケジュール
これらを踏まえ、
- 会社として毎年どれくらい利益を残したいか
- 内部留保を何年でどの程度まで積み上げたいか
といった会社側の希望を言語化します。
ステップ3:税理士と一緒に「税金+社会保険+会社利益」のバランスを試算する
- 役員報酬を〇〇万円にした場合の個人の税額・社会保険料
- そのときの会社の利益・法人税・内部留保の増え方
- 数パターンをシミュレーションし、グラフや一覧で比較する
ここでは、
「どこか一箇所だけ得をするパターン」より、
「全体としてバランスが良いパターン」を探す
意識が大切です。
ステップ4:役員貸付金・借入金の整理方針もセットで決める
- 過去に積み上がった役員貸付金を、どう処理していくか
- 役員借入金がある場合、その返済ペースをどうするか
- 今後、生活費は必ず役員報酬から出すなどのルール決め
ここまで決めておくと、
決算書の貸借対照表もかなりスッキリしてきます。
6. まとめ:社長個人と会社の財布を戦略的に分ける
- 役員報酬は「社長がいくら欲しいか」ではなく、「会社と個人にどう配分するか」のルール
- 個人の税金・社会保険と、会社の法人税・内部留保はトレードオフになる
- 会社に利益を残すことは、銀行評価と将来の投資余力を高めることにつながる
- 役員貸付金・役員借入金は、放置すると銀行・税務署の印象を悪くする
- 役員報酬の見直しは、「社長の生活」「会社の体力」「銀行評価」をセットで考えるのがポイント
オーナー社長にとって、
「自分のお金」と「会社のお金」の線引きは、とても難しいテーマです。
しかし、ここをあいまいなままにしておくと、
- 毎年の役員報酬が「なんとなく前年踏襲」になってしまう
- 決算書の見た目が悪くなり、銀行や税務署からの印象が下がる
- いざというときに資金が足りず、チャンスを逃す
という結果に繋がりかねません。
まずは、
- 自分と家族が安心して暮らすための「年間手取り」の目安を出す
- 会社として、今後3〜5年でどのくらい内部留保を増やしたいかを考える
- そのうえで、税理士と役員報酬・税金・社会保険・会社利益を一度まとめて試算してみる
この3つから始めるだけでも、
「なんとなく決めていた役員報酬」から、
「戦略的に選んだ役員報酬」へと、一歩前進できます。
役員報酬は、
会社の将来と、社長自身の人生設計の両方に直結するテーマです。
焦らず、しかし先送りにせず、
一度じっくり向き合ってみてください。
